2018年4月23日

もし誰も試合を見ていなかったら

逸材を発掘し、育てることに定評があると言われているカープですが、ビシエド、ゲレーロ、アルモンテ、モヤ……と、毎回のように結果を残す外国人選手を見つけてくる中日のスカウトも、心憎いではないですか(ゲレーロは巨人に移籍した今年、今のところ目立った活躍はなし)。

中日ドラ1のニューフェイス、鈴木博志の、あの重そうな球も、何度見てもしびれます。そんな週末の3連戦でした。

ナゴヤドームの観客席で、一生懸命応援しているファンの子どもたちを見ていて、ふと、黒田博樹の言葉を思い出した。

「僕は、常にどんなマウンドでも、強いプレッシャーを感じながらマウンドに立つ。それは、勝ち負け以前に、投手としてマウンド上でたたかう姿勢を見せることが大切だと思っているからだ。なぜなら、その試合は、投手の僕にとってはシーズンのうちの1試合にすぎないかもしれないが、球場に来てくれたファンや、昔、大阪球場にわくわくしながら通った僕と同じような子どもたちにとっては、思い出に残る大切な1試合かもしれないからだ」

これは、黒田が『決めて断つ』の中で、語っていたこと。
また、ヤンキースに在籍していたころ、あるテレビ番組で、こんなことも話していました。

「マウンドに上がるときはやっぱり怖い」
「ニューヨークの家にベランダがなくてよかったなと思ってました。ベランダがあったらもしかしたら……と思ってましたから」

それはドキッとするくらい、野球に対する覚悟の強さを感じる言葉でした。それは、試合を見に来てくれるファンに対する覚悟の強さと言った方がいいのかもしれません。

開幕して一時期、首位打者だったころの丸は、バッターボックスに立ったとき、何かやってくれそうな雰囲気、この人が今一番頼りになる、そんなオーラが確実に出ていました。しかし、このところ、そんな気配がまったく消えている。そういうのって、おもしろいほど観客に伝わってくる。

ファンはもちろん勝つ試合が見たいけれど、覚悟を感じるプレーをじつは見たいんじゃないかと思ったのだ。



プロボクサーの村田諒太さんが、4月1日放送の「ジャンクSPORTS」(フジテレビ)で、興味深いことを話していました。

Twitterで募集された視聴者からの質問に答える企画で、「一番怖いものは何ですか?」という質問が出たときのこと。

番組MCのハマちゃんこと浜田雅功さんから「対戦相手に怖さってありますか?」と聞かれ、「いや、もうないですね」。

「でも、結局、何と戦ってるかと思うと、誰にどう見られるかっていうことと戦ってるんですね」

「たとえば、誰もいないところで、マイク・タイソンとスパーリングしてみてくれと言われたら、それはそれでやってみたい」

「でも、そこに観客が生まれることによって、怖さって生まれるじゃないですか。本質的な殴り合いに恐怖があるんじゃなくて、誰かにどう見られてるかっていうことに対して、恐怖を感じる」

「自分の一番の敵は自分」とはよく言われていることで、自分でも実感することがあるけれど、客観的にものが見えている人なのだと感動してしまった。

基本的に技術的なことが大きく関わっているのかもしれないけれど、もし、誰も試合を見ていなかったとしたら、岡田明丈や藪田和樹はフォアボールを連発するのだろうか。

しかし、誰も見ていない試合なんて、そもそもプロスポーツの試合として成立していないとも思える。誰かに見られているなかで、力を発揮することは難しい。でも、それがないと充実感はきっと得られない世界なのだ。



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